肥育のために大切なこと

那須の農林省草地試験場で、私の友人で農学博士の大山嘉信君(陸軍士官学校の同期生)が家畜部長をしていました。彼は牛の粗飼料、特にサイロの研究をしていたようで、雑誌「畜産の研究」に、昭和五十六年(一九八一)ヨーロッパで開かれ大山君が座長を務めた、サイロの国際研究会議の模様が報じられていました。彼のところへ邑楽郡の畜産農家の青年達と共に、ビール粕の使用について教えてもらいに行きました。近くにビール工場ができるので、そこから出るビール粕を、地元の農家に優先的に販売するとの話があり、それが有効に利用できるか否か、答を出すためでした。

その折に紹介してもらった山崎敏雄先生に、「肥育度と月齢の肉量及び肉質に及ぼす影響」の研究レポートをいただいたり、その他にもいろいろなことを教えていただきました。これらの研究成果は、私達には大層有用なことでしたので活用させていただきました。

この時に先生から素牛(繁殖をする畜産農家が仔牛を離乳後、通常の飼料で育てて、肥育をする農家に売り渡す牛、肥育するための牛)をつくる仔牛の段階で粗飼料(草・藁など繊維質の飼料)を充分に与えることが、その後の肥育のために大切なことを教えていただきました。

繁殖から肥育まで一貫経営の畜産業の方もおられますが、多くの場合、繁殖と肥育は別の畜産業の方々で行われていました。繁殖を業とする方は仔牛を育てて、素牛として家畜市場へ出荷します。そこで上場され競りにかけられた素牛を、肥育を業とする方が買い入れて肥育をして、肉用牛として売ることになる訳です。ですから素牛を家畜市場に出荷する人は、当然そこでよい値で売れるように見た目をよくしようと、濃厚飼料(穀類など高カロリーの飼料)を与えて大きく肥えた素牛にします。ところが、このような牛は、粗飼料を充分に食べた牛のように消化器が発達していませんので、肥育する段階で、飼料を消化吸収する機能が劣っていて、飼料を食べてもなかなか肥育されません。

一方、家畜市場の売買には通常は博労(馬喰)と呼ばれる家畜商が当事者の委託を受けて介在します。彼等は、見た目は小さくてもよく育つ牛を肥育農家へ渡さねばなりません。また、素牛を出荷する側の家畜商は、小柄であってもよく育つ牛であることを認めさせ、よい値で売るのが仕事です。そこで市場では、上場の下見の段階での素牛の生産についての各種の情報の入手が大切になります。もちろんそれは、信頼できる情報か否かが重要ですが、そこは家畜商の信用がものをいいます。家畜商達は長年の取引を通じて信頼できる別の家畜商がくれた情報と自分の鑑識眼で牛を選び、値をつけることになります。公開された市場が未発達な頃は、博労とは口先三寸でうまいことをいって、ぼろもうけをする人達のようにいわれていましたが、家畜市場で細谷さんに紹介していただいた家畜商の方々は、まことに立派な専門家で敬服しました。

こうして共同仕入により、多くの牛に接することができて、よい勉強になりました。それぞれのお店にとっても、価格と質の点でお客様にも喜ばれ、牛肉の売上げが伸びたと喜ばれました。しかしこの共同仕入も、細谷さんが健康を害してしまい、昭和五十八年(一九八三)一月で中止することになってしまいました。

「おいしい肉〜肉から学んだ食の幸 松澤 秀蔵 著(株式会社松金 元代表取締役)」より


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