松金の特選和牛

 おいしい牛肉を極めることとともに、おいしくて値頃のよい品も必要と考えていました。

 おいしさを持っているが、その割には価格の手頃な牛肉をどのようにしたら販売ができるかを考えていました。そこで思い出したのが、群馬の牛肉でした。

 昭和四十年(一九六五)頃、大阪で取引された牛二十万六千頭の産地で最大の県は群馬県で、二万一千頭でした。鹿児島県一万七千頭、愛媛県・兵庫県がそれぞれ一万三千頭、岩手県が一万二千頭と続きます。関西の肉はおいしいといわれる中に、関東、東北の牛も入っていたのです。それを知って群馬の牛に注目しました。業者の中で群馬の黒毛和牛の去勢牛は、好評を得ていました。去勢牛がよければ雌牛はさらによいのではと考えました。先に書いた共同仕入のための生体仕入をしながら、群馬県前橋の家畜市場と玉村の屠場へ出向いて、その実態を見て来ました。前橋の家畜市場から関西へたくさんの牛が積み出されて行きました。玉村では地元のよい牛は集荷されず、関西と東京方面へ出荷されていました。群馬県が和牛のよい産地であることが確認されました。

 そこで群馬県の和牛を、私の納得のいく飼育をしてもらってそれを売りたいと考え、プランを練りました。飼育については、おいしい肉をつくるために、薬品を必要としない健康な牛に育てる。そのために、栄養のバランスをよくすること。ホルモン剤は使用しない。麦、海草、豆粕、粗飼料を充分に。その他の飼料は時期に応じて、牛に合わせてゆくことにして、経験の深い、牛をかわいがってくれる方を探してお願いすることにしました。

 屠場は、生産者の近くにすれば、適当な人を細谷さんに紹介してもらえるのではと考えて、細谷さんが退院され、しばらく経ってから相談をしました。その結果、細谷さんの紹介で、足利の仲江川昇さんにお会いできました。誠実な実直な精農家でした。お二人に飼育をお願いして、屠場は近くの足利へ、そして、近くの業者の方に、屠殺、脱骨、真空包装をお願いして、私どもの工場へ運んでもらうか、こちらから取りに行くということで段取りをつけました。前の共同仕入の仲間に声をかけてみましたが、牛肉の販売力が落ちていて、特定の部位だけで他の部位が使えなかったので、私のほうの部位のバランスが保てなかったことと、仲間の店の職人さんが、今回の牛が取り扱いにくいといったことから、共同仕入は成立しませんでした。コレステロールを低くするために、不飽和脂肪酸が多く融点の低い脂肪に仕上げてあったため、脂肪が軟らかかったのです。私どもでは何の問題もなかったのですが、人によってはうまく扱えなかったようでした。

 そんな事情から、松金が単独で、極力雌牛を仕入れることにしました。こうして平成四年八月、松金の特選和牛がスタートしました。

「おいしい肉〜肉から学んだ食の幸 松澤 秀蔵 著(株式会社松金 元代表取締役)」より


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